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新年のご挨拶(西暦2012年)

改めまして、東日本大震災で亡くなられた方々に謹んでご冥福と、被害に遭われた皆様にお見舞いとを申し上げます。

このたびの震災の死者、行方不明者はあわせて2万人を数えるとのこと。阪神淡路大震災の3倍の犠牲者が出たことになります。あまりの規模の大きさに、正直なところ、震災直後はある種の無力感を感じました。
しかし、これだけの規模の被害が出たからこそ、我々はここからそれ以上のものを学び取らねばならないのでしょう。これで終わったとは誰にも言えません。いや、ごく近い将来に、関東から東海にかけて大規模な震災は起こるものと思わねばなりません。小生の住まう神奈川県もそのただ中にあり、明日は我が身と備えること、これが今の自分に可能なことの一つであり、もしかしたら唯一のことかもしれません。

そこであらためて考えたいのですが、今回の震災、特に原子力事故から我々が学ぶべきことは何なのでしょうか。我々はその教訓を十分にくみ取っているでしょうか。

まず第一に、先ほど申したように次の地震にこそ備えることが大事でしょう。次に、あえて言いますが今回の地震での「成功」から学ぶことが大事だと思います。
東京電力の福島第一原発はご承知のような状況ですが、一方で、東北電力の女川原子力発電所はさらに震源に近かったのにもかかわらず、震災直後に事故どころか避難所として使われたと聞きます。福島第一原発の所長は、あのような危機的状況で踏みとどまって事態を収拾した英雄ではありますが、一方で今回の事態を招いた現場の最高責任者でもあります。彼の責任を問えと言っているのではありません。責任の追究はむしろ真実の追究の妨げになるというのは、工学者の常識です。そうではなく、私が気になるのは女川で「事故を起こさなかった英雄」が軽視されていないだろうか、ということです。
女川と福島とを分けたものがなんだったのかは、今後改めて検証されるでしょう。もしかしたらその中で、女川の英雄についても明らかになることがあるかもしれません。ですが、人は得てして火事をボヤのうちに消し止めた人よりも、大火事になってからがんばった人の方を評価しがちです。津波にしても、大きな被害を出した学校も少なくありませんが、児童生徒を無事に親元に帰した教職員もいたわけで、彼らにこそ学ぶことは多いはずです。単なる美談と言うことではなく、「成功」の裏にはそれなりの理由があるものです。それを見つけ、人を讃え、次への備えに生かすことが、大変重要なことだと思います。

そして3つめとして、震災ばかりではなく、ここ十年ほどの我々日本人が行ってきた歩みを見直すべきではないでしょうか。

たとえば、原子力安全保安院を経産省から分離して、環境省管下に「原子力安全庁」を作り、原子力安全関連の業務を移管することが議論されています。ですがよく考えてみると、元々文科省管下にあった原子力行政と経産省管下の産業行政、もっというなら電力行政を、いわゆる省庁再編で一元化したのが原子力安全保安院です。それを今頃になって分けようと言うわけです。いったいこの「再編」とは何だったのでしょう。
私の記憶するところでは、この当時から原子力行政と電力行政とを一元化することを問題視する声はあったと思います。つまり、電力を安く安定的に供給することが使命の電力行政と、原子炉という危険物をいかに安全に運用するかといういう原子力行政とは相反する側面があるということです。ですが、「一元化すれば電力事業を『合理化』できる」有り体に言えば、電気代が安くなるとの理屈で、「原子力安全保安院」への一元化は行われました。確かに電気代は安くなりましたが、その一方で「なれあい」が進み、とうとう破綻したのが今回の事故という見方もできます。実際のところがどうであったのかは今後専門家の検証が行われるでしょうが、原子力安全保安院が電力行政の中核を担っていたことすら知らない国民が多数です。

今、改めて、自分がこれまで年に一度書いてきた「年頭の挨拶」を見直してみると、2006年の年頭の挨拶で、小生は安全などが効率などよりも軽視されている風潮に異議を申し、2007年には「責任」の不在を嘆いていました。その後も、いろいろと妄言を吐いておりましたが、昨年の震災と原発事故とは、これらの危惧が最悪の形で顔を出したものと見えなくもありません。
別に、予言者を気取っているわけではありません。自分が書いてきたことは単なる個人的な「危惧」でしかなく、これを今更持ち出しては「後出しじゃんけん」でしかないでしょう。ですが最後に、私自身がもう一度考え直したいことを、2006年のご挨拶から再掲して、本年のご挨拶とさせていただきます。

<「効率」や「時間」や「お金」といった、定量化しやすい価値ではなく、もっと大事なものがこの国にはあったのではないでしょうか。失われつつある「それ」を、取り戻すにはそろそろ限界まで来ているのかもしれません。これらの「事件」を決して他人事で終わらすことなく、我が事として真剣にわが身、そしてこの国を見直差なければならないのではないか、そう考えます。>

本年もよろしくお願い申し上げます。

2012.1.3

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