うっちーわーるど

趣味のエッセイ「Uty Days」 その3

ゼロ戦は本当に弱かったのか?

先日、ジブリの「風立ちぬ」を見てきました。映画の感想はあえて控えますが、その感想などを見ていると、「ゼロ戦は弱かった」という意見が散見されます。今回は、前2回とはうって変わって重く、またデリケートなテーマですが、ゼロ戦をテーマに取り上げようと思います。

〜ランチェスター第二法則で計算するゼロ戦の実力〜

「ゼロ戦は弱かった」というのは、映画の前からもちょくちょく議論に上がっていたテーマのようで、まず、弱かった、という意見を読んでみると、ゼロ戦はこういうイメージで見られているようです。

「ゼロ戦は、運動性能などを重視したため防弾等がほとんどなく、当初は軽快な運動性を生かしてそれなりの戦果を挙げていたが、後期になるとそれのために次々と撃墜されるようになった。」

一方、それに対する擁護論としては、次のような意見が代表的でしょうか。

「日本は諸外国に比べて発動機(エンジン)の性能が悪く、ゼロ戦のエンジンの馬力は、米国の半分しかなかった。同じ馬力では圧倒的に強かった。」

どちらの意見も、考え方としては間違っているとは思いません。ですが、どちらにせよ、ゼロ戦は米国の戦闘機、特にヘルキャットに比べると弱かったということで、同じ結論になっているようです。
ですが、実はどちらの意見も、非常に重大な視点が抜けているように思います。それは、「ランチェスターの第二法則」と呼ばれる、戦略論の基本と言われているものです。

簡単にランチェスターの第二法則というものを説明しましょう。あるところにA軍とB軍という二つの軍隊があったとします。A軍は戦闘機が10機、B軍は戦闘機5機です。戦闘機やパイロットは全く互角とします。もちろん、数の多いA軍が勝ちますが、では、何機残るでしょうか。
戦闘機が互角なら、10−5で、5機、と思った人も多いかもしれませんが、違います。この場合の残機数は、計算上、約8機と見積もられます。

その謎解きの前に、もう一つこんな例を出しましょう。同じく、C軍とD軍という2つの軍隊があります。C軍の大砲は粗悪で、10発に1発しか当たりません。対するD軍は100発100中です。このとき、C軍の大砲100台と、D軍の大砲20台で戦闘になりました。勝つのはどっちでしょうか。
打率を掛け合わせて考えると、100×0.1<20×1.0だから、D軍、と、思うでしょうか。では、シミュレーションしてみましょう。
一回目の交戦の後、C軍は100−20×1.0=80台、残存します。一方、D軍は20−100×0.1=10台残存です。
二回目の交戦で、C軍は80−10×1.0=70台残存します。一方、D軍は10−80×0.1=2台しか残りません。
三回目の交戦で、C軍は2台の損失を受け、68台残存します。一方、D軍は7台の損害を受けるはずですが、2台しか残っていないので全滅と言うことになります。

1例目に戻りますが、A軍はB軍よりも5機多いのですが、余った5機は、他の戦闘機の戦闘が終わるまで、黙って待っているわけではありません。他の戦闘機と同時にB軍を攻撃したり、A軍の戦闘機を援護したりします。このため、A軍の戦闘機は圧倒的に有利となるわけです。ランチェスターでは、このような場合、強さは台数の自乗に比例するとしています。これを数式化したのがランチェスターの第二法則と呼ばれるもので、次のような式で表されます。

M02-M2=E(N02-N2)

E:交換比(おおざっぱに言うと、敵軍の味方に比べた純粋な強さ)
M0:味方の初期兵力数
M:味方の残存兵力数
N0:敵の初期兵力数
N:敵の残存兵力数

(参考)ランチェスター戦略「弱者逆転」の法則・福永雅文著・日本実業出版社

これにより計算すると、最初の例で、A軍の損害は2機程度と推測されるのです。

説明が長くなりましたが、ここで言いたいのは、近代戦においては、双方の台数(機数)を無視して話すと、とんでもないことになると言うことです。前者の例では、A軍とB軍の損害数は2対5(キルレシオと言うそうですが)で、互角の戦闘機のはずなのにA軍の戦闘機はB軍の2.5倍も強いと見えてしまいます。後者の例でも実際には10倍の命中率の差異があるのに、C軍とD軍の損害数は32:20=で、1.6倍しかないように見えます。近代戦においては、損害よりも初期兵力に、これほどの大きな意味があるのです。

では、実際にゼロ戦の実力はどうだったのでしょう。ネットで見つけた記録に、次のようなものがありました。

Yahoo!知恵袋「太平洋戦争の時アメリカは、どの戦いからグラマンヘルキャットを投入して来たんですか?」

零戦との初顔合わせは約1ヶ月後の10月6日、第14機動部隊(アルフレッド・E・モントゴメリー少将指揮)の「エセックス」「ヨークタウンU」「レキシントン」「カウペンス」の4隻から、第一次攻撃隊として出撃したF6F3個小隊ずつ計48機(1機が発艦に失敗した為、実際に攻撃に向かったのは47機)と、252空ウェーク島分隊の零戦23機が交戦しました。
空戦の結果ですが、252空ウェーク分隊の戦闘行動調書によりますと、自爆1、未帰還14、着陸後に機銃掃射を受けて6機が破壊されたとあるのでほぼ壊滅、これに対し米側は6機が撃墜され、対空砲火による被害も含めると計12機を損失しています。
この結果を元に、ゼロ戦とヘルキャットの交換比を計算してみます。ゼロ戦の初期機数は23機、着陸後の損害は入れないとすると、損害は15機として、残存機数は8機、ヘルキャットは初期機数は47機、対空砲火によるものは除外すると損害は6機なので、残存機数は41機です。

E=(N02-N2)/(M02-M2)
 =(232-82)/(472-412) ≒0.88

仮に、着陸後の損害も入れる(ゼロ戦の残機数2機)としても、交換比は0.99となり、少なくともこの結果からは、ゼロ戦はヘルキャットよりも劣っていたとは言えないことになります。

もっとも、これはたった一つの例でしか無く、正しい結論を出すためには、もっと多くの交戦記録を同様の分析にかけ、検討しなければなりません。ですが現在、少なくともネット上ではこういう戦略論の基本的なことがほとんど顧みられずに、単純な損害数だけを元に議論されているのは、やはり良くないと思います。

また、念のために言っておきますが、私は別にゼロ戦や、先の大戦を正当化しようとしているわけではありません。ただ、物事を正しく認識し、理解することはどんな場合にも大事なことだと思います。むしろ、物量は性能を圧倒するというランチェスターの第二法則は、ゼロ戦がどれほど優秀な戦闘機であったとしても、物量に勝る米国には絶対に勝てないと言うことを教えています。
ランチェスターの法則自体は、第一次世界大戦の頃に発見されていたそうですが、その後第二次世界大戦中に米国で研究され、発展したものであるそうです。日本軍や政府の主要な人たちが、ランチェスターを知らなかったのか、知っていても活用しなかったのかはわかりません。ですが、これを知っていれば日本はあのような戦争に突入することは無かった、あるいは早期に終結したのではないかと考えてしまいます。これが、今回あえてこれを掲載した理由です。

末筆ながら、先の大戦で亡くなられたすべての方々のご冥福を、改めてお祈りいたします。

御意見有ったらぜひ聞かせてください。(master@unitmarket.jp)

参考・引用文献
ランチェスター戦略「弱者逆転」の法則・福永雅文著・日本実業出版社

2013.08.17 うっちー(master@unitmarket.jp)

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